文章を書いているとき、デザインをしているとき、複雑な問題に取り組んでいるときなど、タスクに集中していると、周りの世界が見えなくなり、完璧に集中できる瞬間があったことはありませんか?
「まるで自動操縦されているような感覚で、身体が勝手に動く」
「うまくいかないことはないというような無敵の感覚を感じる」
「何の摩擦もなく、自然に仕事ができる。」
「努力すら必要はない。」
アスリートはそれの状態を「ゾーンにいる」と呼びます。
アーティストは音楽の神を意味する「ミューズ」 と呼びます。
近年の心理学者は、この状態を「フロー」(flow:流れの意味)という正式名称を与えました。
フローとは、70年代にポジティブ心理学者のチクセント・ミハイが提唱したもので、
「活動の過程において、エネルギーに満ちた集中力、完全な関与、楽しさを感じ、空間と時間の感覚を失うほど没頭している」精神状態のことです。
また、スティーブン・コトラーが『Rise of the Superman』でこのように述べています。
フローとは「すべての行動、すべての判断が、楽に、流れるように、シームレスに次の行動につながる状態で、それは高速の問題解決であり、究極のパフォーマンスの川に流されることである」。Decoding the Science of Ultimate Human Performance | Steven Kotler | Talks at Google
ストレスや悩みでなかなか目の前の物事に集中しにくい現代を生きる人にとっては、夢のような話ですね。
しかし、どんな夢でもそうであるように、フローであることを認識した瞬間に、その至福の感覚は解消され、気が散っていた世界が頭の中に戻ってきてしまいます。
私たちは皆、もう少しフローに近い状態になることができます。
では、何が私たちをこのような状態に追い込むのかを解明し、簡単にフローに飛び込むことができたらどうでしょうか?
今回はそんな夢のようなフローを味方につけるための5つのステップについてご紹介します。
Contents
私たちがフローに入るとき、本当は何が起きているのか?
仕事をしていても、たまたま入ったかのようにフロー状態になることがあります。
しかし、チクセント・ミハイが2014年に発表した論文で説明しているように、実はフローに入るためには特定の条件があるのです。The Concept of Flow
1、目標と進捗が明確であること
2、タスクが明確で即座のフィードバック(反応)を得ることができるものであること
3、タスクの課題と自分のスキルのバランスが取れていること
言い換えれば、自分が何をしているのかを理解し、それがうまくいっているかどうかを確認でき、自分の居心地の良い場所の外に自分を押し出すことができること。
習得と挑戦の組み合わせがフローをもたらすということです。
チクセント・ミハイは、芸術家やスポーツ選手、科学者や学者など、さまざまな分野の専門家と話をする中で、フローの概念を初めて提唱しました。
各々が自分のスキルが試される瞬間にフロー状態になると述べていましたが、目の前の課題に圧倒されるほどではありませんでした。
つまり、課題が大きすぎて無謀すぎる挑戦の場合は、不安に襲われてしまい、
挑戦の難易度が低すぎて十分に高くないと、脳は集中力を失い、他の刺激を探してしまうということです。
チクセント・ミハイは、フローをプロのスキープレイヤーが難しいコースに挑戦するときの動きと表現しています。
Psychology Today: Finding flow
「斜面を滑っていると想像してみてください。
体の動き、スキー板の位置、顔の前を通り過ぎる空気、雪に覆われた木々に全神経を集中させています。
意識の中に葛藤や矛盾が生じる余地はなく、気が散るような考えや感情があれば、顔を下にして雪に埋もれてしまうかもしれません。
そのような状態の時は永遠に続いてほしいと思うほど完璧な走りができます。」
フローの5つの要素と、それを仕事に取り入れる方法
私を含めこの記事を読んでくださっている方のほとんどは、プロのスキーヤーではないかと思います。
しかし、完璧にその瞬間に集中してタスクをコントロールし、努力せずに何かを完成させるという現象は、誰にとっても魅力的なもののように思えます(起業家のティム・フェリスはフローを「Effortless output = 努力のいらない生産」と呼んでいます)。
先ほどご紹介した、フローを構成する3つの要素「明確な目標、フィードバック、適度な難易度」はフローに入るための要素と言われていますが、実はこれら3つの要素だけではなく、もっと多くの要素があります。
人生のより多くの場面でフローを見出すためには、次のフローのパズルの5つのピースをすべて揃える必要があると言われています。
すなわち、「自己管理・環境・スキル・タスク・報酬」の5つです。
自己管理:フローの状態を引き起こすための意志の力に着目する
フローのような状態では、私たちは外部の力によって受動的に決定されるのではなく、自分の意識の内容をコントロールします。by チクセント・ミハイ
私たちは皆、近道が大好きです。
特に、フロー状態に入るというアイデアは、働かずしてほとんど働いているようなもので、魅力的です。
しかし、フロー状態に入るためには、意志や規律、自制心が必要です。
実際、自制心はフローの重要な要素です。
チクセント・ミハイは、著書『フロー』の中で、「フローの状態では、外部からの力に受動的に支配されるのではなく、自分の意識の内容をコントロールすることができる」と説明しています。Flow: The Psychology of Optimal Experience (Harper Perennial Modern Classics)
頻繁にフロー状態になるためには、このような意識のコントロール方法をマスターする必要があります。
しかし、注意力が散漫な現代社会では、それは容易なことではありません。
自制心の科学を活用して、座りっぱなしの学者から100マイル以上のマラソンランナーになった心理学教授のネイサン・デウォルは、次の3つのステップに集中することで、意志力と自制心を養うことができると説明しています。
1、自分の基準を見つける。
自分の基準とは、自分の行動がフロー状態になるために望ましいものかどうかを判断するための基準となるものです。
例えば、メールを(もう一度)チェックするのか、その日のうちに1000文字の執筆をを達成するのかなどです。
2、モニタリングの手段を用意する。
フローには即時のフィードバックが必要ですが、セルフコントロールも同様です。
どのようなタスクであっても、自分のパフォーマンスを常にモニターし、継続しながら調整する方法を見つけましょう。
3、自分のエネルギーに注意してください。
私たちの精神力は1日の中で変化します(だからこそ、自分のエネルギーに合わせて仕事のスケジュールを決めることが重要なのです)。
自分がいつエネルギーを持て余すのかを理解することで、自分をコントロールし、フロー状態に入るチャンスを増やすことができます。
環境:斬新で刺激的な空間を見つける
ルーティンワークは生産性を支える基礎となります。
しかし、昨日と同じことをしているだけでは、フロー状態に入ることはできません。
そうではなく、日常的にチャレンジできる環境を見つけて、自分のコンフォートゾーンから少しだけ外れるようにしましょう。
例えば、波を捕まえるたびにその波に対応しなければならないサーファーのことを考えてみてください。
コトラーは「Rise of the Superman」の中で、この斬新さ、予測不可能さ、複雑さこそが、あなたのフロー状態を引き起こすと述べています。
残念ながら、仕事をビーチに持っていく人はほとんどいないかと思います。
その代わりに、コトラーはフローを引き起こすのに役立つ環境の質がいくつかあると言っています。
大きな影響
自分の行動が実際に影響を与える環境や活動を見つけることが大事です。
アスリートなら、より難しいコースや対戦相手を選ぶかもしれませんが、あなたの場合は、恥ずかしがり屋なら会議中に発言したり、コメントや世間からのフィードバックが怖いなら、書いた記事をSNSで拡散したりといった単純なことが考えられます。
そのような活動は自分にとって大きな影響を持つことになります。
豊かな環境
より多くの注意を必要とし、変化に素早く対応できる環境を見つける。コトラーは、Pixarのオフィスを例に挙げています。
ピクサーのオフィスには、部署に関係なくさまざまな従業員が頻繁に出入りする場所があります。
「スティーブ・ジョブズが人為的に環境条件を整えたことで、部門や分野を超えた人々が互いにぶつかり合い、会話をするようになったため、環境における新規性、予測不可能性、複雑性の量が大幅に増加しました」とコトラーは言います。
その結果、フロー、イノベーション、クリエイティビティが上がったそうです。
スキル:意図的に練習して、より多くのフローをもたらす
Wired誌のインタビューで、チクセント・ミハイはフローを「目的のために活動に完全に没頭すること」と表現しています。
「没頭することで、自我は消え去る。
時間はあっという間に過ぎていく。
すべての行動、動作、思考は、ジャズを演奏するように、前の行動から必然的に続く。全身全霊で取り組み、自分の能力を最大限に発揮している」。
と言います。
フローは、自分のスキルと目の前の課題の間にあるスイートスポットを見つけることに依存しているため、フロー状態に到達する前に、ある程度の熟練度が必要なのは当然のことです。
つまり、自分のスキルを完全にマスターしないとフロー状態にならないということではなく、自分のスキルがどれくらいあるのか、それを最大限に活用するにはどうしたらいいのかを知る必要があるということです。
そのためには、心理学の権威であるアンダース・エリクソンが「意図的な練習」と呼んでいる方法を実践することが大事です。
意図的な練習とは、ただ単に動作をこなすのではなく、すべてのセッションに特定の目標を設定し、それを測定、分析、最適化することで、全体的なパフォーマンスを向上させることです。
エリクソンは「洞窟に住んでいても、地質学者にはなれない」と説明しています。
このエリクソンの述べる「意図的な練習」はフローと同じ基準が多く含まれています。
明確な目標と成果
即時のフィードバック
自分のスキルを極限まで高める
また、意図的な練習を、パズルのピースのようにとらえることもできます。
大きな課題を小さなピースに分割し、その一つ一つに集中して取り組むことで、マスターすることができます。
練習を重ねることで、タスクが終了するまで、あるいはスキルが習得されるまで、効果的に習得を重ねることができます。
それだけでなく、このように集中力を分解することで、自分のスキルが課題にマッチしたゾーンにしっかりと身を置くことができます。
課題:目的を明確にする
「あるテーマが私たちを興奮させるものであったり、私たちの心の奥底にある好奇心をかきたてるものであったり、あるいは賭けの対象が大きいために学ばなければならないものであったりすると、私たちはより多くの注意を払います。」ロバート・グリーン
これまで、フロー状態になるための方法を紹介してきましたが、絶対に必要なのは、自分がやっていることに明確な目的意識を持つことです。
自分がやっている仕事に真の意味でのつながりを感じていないと、その瞬間に仕事をやり遂げることはできません。
自分の仕事を充実させるためには、自分の仕事との間に本物のつながりを感じる必要があります。
これは仕事にやりがいを求める方なら心当たりがあるのではないでしょうか。
自分がやっていることに興味がなければ、何時間もかけてじっくり練習し、肉体的にも精神的にも負担をかけることはありません。
自分の仕事が自分の目的と結びついていることを確認する方法の一つとして、個人のミッションステートメントを作成することがあります。
目的とは、自分の価値観やスキルを、どのようにして世界に真の変化をもたらすことができるかに結びつけることです。
作家のウィリアム・アルーダは、この目的を見出すために、いくつかの簡単な質問をすることから始めることを提案しています。
自分は何に情熱を持っているのか?
自分の価値観は何か?
自分の長所は何だろう?
自分の答えに納得できたら、それを次のようなテンプレートに落とし込んでみましょう。
あなたが創造する価値+誰のためにそれを創造するのか+期待される結果。
例えば、ライターであれば、「ストーリーを作るスキルを活かして、起業家やクリエイターがオーディエンスと本物の意味のあるつながりを作るお手伝いをしています」と言うかもしれません。
もし、自分の仕事でストーリーを語っていなかったり、真正性を保っていなかったりすると、情熱が足りないことになります。
自分のミッション・ステートメントを持つことは、自分がフローへの正しい道を歩んでいることを確認するだけでなく、自分のコンフォートゾーンを超えていくことにもつながります。
作家のロバート・グリーンが「習得」についてこのように説明しています。
「私たちは、やる気があるときには、どれほど深く学ぶことができるかを知っています。
あるテーマが私たちを興奮させるものであったり、私たちの深い好奇心をかきたてるものであったり、あるいは賭け金が高いために学ばなければならないものであったりすると、私たちははるかに注意を払うようになります。」
ご褒美:外発的な動機を求めてはいけない
「その活動が内発的に報われることを経験してください。」チクセントミハイ
情熱を持って行動するとフローが生まれやすいように、内発的にやりたいと思える仕事をする必要があります。
つまり、本当の意味で意義を感じ、やるべきことを楽しんでできる仕事や作業です。
お金。賞。褒められること。これらはフローの仕事の副産物ではありますが、仕事をする上での中心的なモチベーションにはなり得ません。
実際、チクセントミハイリイ流のフロー体験の6つの核となる要素の1つは、「活動が本質的に報われることを経験すること」とされています。
さらに、その感覚は「最終的な目標はプロセスの言い訳に過ぎないことが多い」とも言っています。
瞑想やマインドフルネスのトレーニングと同じように、フローに勝つ・負けるといった概念はありません。
そのため、もし仕事中にフロー状態に入れなかったとしてもイライラしたり、不安に思う必要はなく、シンプルになぜその仕事をしているのかを考えてみましょう。
その作業自体が気持ちいいから仕事をしているのでしょうか?
それとも、その作業を完了することで自分にとって何か良いことがあるからでしょうか?
そのように意識することでフロー状態に入る回数が増えるだけでなく、自分にとって本当に意味のある仕事をすることに自然とシフトしていくでしょう。
没頭することで、苦労せずに作業ができて、しかも自分の仕事に満足できる。
自分にとっては一石二鳥ですし、企業と自分の関係的にもWin-Winだと思います。
自分のフローを見つけよう
チクセント・ミハイは著書『フロー』の中で、このように述べています。
「私たちが普段信じていることとは逆に、人生で最高の瞬間というのは、受動的で受容的でリラックスしたような時間ではない。」
「最高の瞬間は、困難で価値のあることを成し遂げるために、人の身体や心が自発的な努力で限界まで引き伸ばされたときに起こる。」
「長い目で見れば、最適な経験は、マスターしたという感覚、あるいは、人生の内容を決定することに参加したという感覚につながり、それは、通常想像できる他の何よりも、幸福という意味に近いものである。」
フローに努力が必要ないということを皮肉っているのは、フローとは一生懸命取り組んでいるときにやってくるからです。
挑戦することで、不安やストレスをすり抜けて、穏やかな能力のある場所にたどり着くことができます。
フローに入るためには、今回ご紹介したような条件や要素が必要だと考えると少々億劫になってしまう人がいるかもしれません。
しかし、フローに入ろうと取り組む過程で多くの学びがあることも事実です。
そのため、単純に楽をしたいという姿勢よりも、自分が本当に没頭できる何かを見つけたい、価値のある人生を歩みたい、という思いで作業や仕事に取り組むのが良さそうです。
そういう意味では、フローは、仕事の生産性を高めるだけでなく、意味のある人生の条件でもあると言えるかもしれません。
Finding Flow: 5 Steps to Get in the Zone and Be More Productive